麹町中学元校長・工藤勇一さんの話を聞く 

 

この原稿を書いていた時に、朝のラジオ放送で元・麹町中学校長であった工藤勇一さんの話をたまたま聞いた。この人は「奇跡の改革」を行ったことで有名だ。その改革のきっかけは工藤さんが校長として赴任して間もない頃(2019年)に日本財団が発表した「世界の18歳、意識調査」を見たことにある。

 

次の質問にイエスorノーで答えるアンケートだ。

 

①自分を大人だと思う

②自分は責任ある社会の一員だと思う

③将来の夢を見ている

④自分で国や社会を変えられると思う

⑤自分の国に解決したい議題がある

⑥社会議題について家族や友人等周りの人と積極的に議論している。

 これらの項目にイエスかどうかをチェックしたものだが、日本の若者はすべておいてイエスと答えたパーセントが最低だつたのだ。

特に一番と四番がひどかった。

①番は日本が29.1%インドが84.1%中国89.9%イギリス82.2アメリカ78.1S%ドイツ82.6%。

④番は日本18.3%インド83.4%中国65.6%イギリス50.5%アメリカ65.7%ドイツ45.9%

工藤校長は特に四番の「自分で国や社会を変えられると思う」が10%台ということにショックを受けたそうだ。これは自立意識と当事者意識の欠如と見たのだ。そこでやられたことが

1.定期テストの廃止

2.固定担任制度の廃止

3宿題の廃止

4服装チェックの廃止 という今までは常識だったものを全部やめたのだ。

工藤さんのやり方は松下さんと同じだと思う。松下さんは「あまり教えてはいけない。教えたらせっかく上手な人が下手になる。自らが工夫もせず伝統として教えれば、なるほど上手にはなるのは早い。しかし、これでは師匠を超える名人は育たない。宮本武蔵や坂本龍馬がその良い例だ、名人には師匠はいらない」と松下政経塾生にも言っていた。

 私に松下さんが「昔話にしたらあかんで、昔語りになりや」と言ったのもそのことである。ところでいろんな常識を麹町中学は捨てたが、工藤先生がやめさせたのではなく、生徒たちにアンケートを見せ①番から⑥番までの問に答えさせたうえで、麹町中学の課題をあげさせた。そして、その課題はどうすれば解決出るかを議論させ、自分達で何を行うべきかを決めて実施したのが先にあげた改革である。もっと正確にはインターネットで調べて本を購入してもらいたい。私は毎週テレビ放送されている 「カンブリア宮殿」で紹介されたとき見ていた。今回松下さんの「学び方と学ばせ方」をどう紹介しようか、と考えていた時にこのラジオ放送を聞いたので松下さんとやり方が同じだと感嘆をしたのだ。

         話を私と山下社長との出会いに戻す。
 私は“山下社長に報告をするように”、と松下さんに言われたので、社長室へと続く通称「松の廊下」と言われる厚い絨毯道を歩いた時は、さすがに緊張した。
私が入っていくと、山下さんは机の上の書類や印鑑をすべて引き出しにしまわれた。私が三日間のセミナールの流れを表にしたものや、研修教材などを簡単に説明すると、それには全く目を通さず、さっと引き出しにしまわれた。私は驚き、ただし立派だと感じた。
そして私の顔を見ながら、“さあ話してくれ”と言われたのだ。私は、なぜこの勉強会を作ったかということを、さきにも書いたが、PHPの営業社員として本(「PHP道を開く」と月刊誌しかなかった)を売りに行き、松下さんのファンの多くは中小企業の経営者だと知りました。この人たちには、理屈ではなくて松下さん居ませるがごとき勉強会をするのが一番良いと思ったからです、と言った。
すると、「よその会社の事はどうでもよい。そんなことより、今、松下電器はつぶれかかっているのだ。松下電器がつぶれたら、こんな勉強会をやっても誰も来ないだろう。まず社内を上から下まで、ぜひ受けさせてくれ」と言われたのだ。
言われた瞬間はぴんと来なかった。正直な話、この人は視野の狭い人かもしれない、と思ったくらいだ。しかしそうでなく、本当に松下電器は分断され、つぶれかかっており、山下さんは命がけで、それをくい止めようとしていることがだんだん分かってきたのだ。これ程私心がなく、清廉潔白な人を私は知らない。
山下さんが、若い人の意見を真剣に聞き、決断が速いことは、この時の態度だけでも良く分かった。
山下さんが社長に就任した最初の月の社内報には十三(じゅうそう)のアイロン事業部や炊飯器事業部を視察しているところが特集として取り上げられていた。今まで社内報には取りあけられたことのない事業場だ。普通なら新任社長は脚光を浴びている事業場を訪問するだろう。山下さんは違ったのだ。 

私の経営塾の研修で必ず塾生に見せていたビデオがある。これは私が偶然ビデオサービスという会社の倉庫で見つけたものだ。誰にも権利の無いビデオだと担当者から聞いたので、うちで管理する、と言ってもらってきた。